ゲーゲンプレスのレッズ×ポゼッションのシチズンズ ~首位を争う頂上決戦~
赤という色は『活力・情熱・興奮』を
想起する色である。
リバプールのホームスタジアム
『アンフィールド』では5万5000人もの
赤を纏った満員のサポーター達がプレミア
随一の情熱で選手を鼓舞する。
キックオフ前には
『ユー・ネバー・ウォーク・アローン』が
スタジアム全体に響き渡り、
『君は決して一人では歩かない』
と誓い合う。
ホームゲーム24戦無敗のこのチームの独特な
スタジアムの雰囲気に飲まれた昨シーズン
覇者”マンチェスターシティー”はこの試合で
後半40分にPKを獲得するもマハレズが
蹴ったボールはゴールポストのはるか上。
リバプールもサポーターの声援をバックに
奮闘するも得点は入らず、0-0で試合の
終わりを告げる笛が鳴った。
サポーターの熱狂的な応援とは裏腹に、
スコアレスドローで終わったこの試合だが、
ピッチレベルに視点を変えれば、そこには
クロップとグアルディオの勝ち点『3』を
巡る色々な駆け引きがあった。
~目次~
1.両チームの戦術
・ リバプール
リバプールの戦術
シティーがボールを支配して、リバプールが
カウンターを狙うという試合の展開は
ある程度は試合前から想像できます。
それゆえにリバプールはシティー側の
ビルドアップからプレッシャーをかける
超攻撃型プレッシングで、最終ラインから
プレッシャーをかけて相手のミスを誘い
そこからのカウンターを狙うことが
第一の狙いです。
戦術のポイントは、全員での連動した
プレッシングです。
下の図で詳しく解説するので、ご覧ください。
《リバプールの超攻撃型プレッシング》
①前線の3人(サラー、フィルミーノ、マネ)が
右SBのウォーカーとCB、GKに
プレッシャーをかける。
→フィルミーノは他の二人と違い、中盤から
降りてくるフェルナンジーニョのパスコースを
切りながらプレスをかける
②前線からのプレッシングを掻い潜り
CBやSBから中盤にボールが渡ると中盤の
3人(ヴァイナルダム、ミルナー、ヘンダーソン)が
中盤の選手にプレッシングをかけてボールを
簡単に前に運ばせません。
③プレッシングはミスを誘発することを
目的とすると同時に、サイドにボールを
誘導することも目的であり、ボールが
サイドに渡ると前線の1人と中盤の1人で
ボールホルダーを挟み込み、パスコースを切りつつプレッシングをかける
このような連動したプレッシングで前半は
上手くシティーを追い込みます。
その証拠にヴァイナルダムのボール奪取数が
前半だけで7回、デュエルの勝率は57%で
シティーより勝り、徹底されたプレッシング
からのポジティブトランジションで敵陣での
タッチ数が8回(シティーは5回)と多く
チャンスを作ります。
ゴールは奪えなかったもののサラーの
シュートやロブレンのシュートなどのゴール
チャンスがあり、前半はボールこそ
シティーが支配したものの(シティーの
ボール支配率は57%)私的な目線で言えばボールを持たされていた展開にも思えた
のです。
狙いがハマったシーン
前半3分のリバプールが
マンチェスターシティーのビルドアップから
プレッシャーをかけにいったシーンです。
①
↓
②
②の図でエデルソンからラポルトにパスが
渡ったところからリバプールのプレッシング
のスイッチが入り、プレスをかけ始めます。
→フィルミーノはフェルナンジーニョのパス
コースを切りながら、マネと協力してプレス
を掛け、パスコースを限定します。
③
次のシーン(③)でパスコースを限定し
(サラーもSBメンディーのパスコースを
切っている)、ラポルトがストーンズに
パスを出したタイミングで、フィルミーノと
マネの2人で、ストーンズにプレスをかけます。
④
そしてプレッシャーを受け、ストーンズは
セーフティーにGKにバックパスで
戻します。(④)
⑤
GKのエデルソンは右に展開します。
リバプールは完全にパスコースを限定して
いたため、中盤のミルナーがプレッシングに
参加し、ウォーカーにプレッシングを
掛けます。(⑤)
⑥
ミルナーがプレッシングをかけた際に、パスコースを
作ろうとB・シウバが動いていましたが、
そこにもSBのロバートソンがプレッシングに参加し、
ボールを奪います。(⑥)
次のシーンでは前線に人数をかけていたので、
すぐにショートトラジションに移ることができ
そのままチャンスを作ることができましたが、
ゴールには繋がりません。
しかし前線の選手がパスコースを
限定させながら、プレスをかけることに
よって、後ろの選手が他のパスコースを
消しやすく、連動してボールを奪いやすく
なるこの守備戦術は効果的に
前半はマンチェスターシティを
苦しめていたのです。
マンチェスターシティー
マンチェスターシティーの戦術
リバプール戦で特に気になったのは
中盤の形です。
通常であればアンカーに
フェルナンジーニョを置いて、
インテリオールを2人置く形ですが、
なぜこの試合では3枚→2枚に変更した
のでしょうか?
それは昨年のチャンピオンズリーグの
リバプール×マンチェスターシティーの2ndレグ
を振り替えれば、ダブルボランチで
臨んだ理由が見えてきます。
《17/18チャンピオンズリーグ準決勝
対マンチェスターシティー戦での
リバプールのハマった攻撃》
フォーメーションやメンバーはこの試合とは
異なりますが、シティーの中盤が逆三角形
という点では[4-3-3]の形の参考となる
のでこの試合の後半9分のサラーの得点シーンを解説します。
シティーはこの前のシーンで前線から人数を
かけ、高い位置でボールを奪い攻撃に移行
することを狙いとしていましたが、ボールを
奪いきれずに、リバプールにチャンスを
作られます。
中盤のダビド・シルバとデブライネも前線の
プレスに参加していたので、バイタルエリア
のフェルナンジーニョの両脇のスペースが
空きます。
それゆえにこのスペースにスルーパスを
出され、サラーにフリーでボールを持たれ
結果的に、失点に繋がります。
得点シーンに限らず、リバプールの前線の
3人にロングボールを出して、このスペースに
セカンドボールを落とし、中盤から
上がってきた選手が再度チャンスを作る
シーンもあったことも確かです。
上の説明でもわかる通り、
フェルナンジーニョの両脇のスペースを
使われることがマンチェスターシティーに
とっては嫌だったので、中盤を2枚に
することでこのスペースのケアをしやすい
ようにしたのです。
2.後半に勝負をかけたリバプール
前半両者、無得点で終わった後半に
クロップ監督が動きます。
前半は守備的だったリバプールが
攻撃的な一手を打ちます。
それが両SBと中盤のミルナーとヴァイナルダムの
積極的な攻撃参加です。
《リバプールのリスクを冒した攻撃》
①前半両サイドに張ってプレーしたサラーと
マネが中央のエリアに絞ります。
(両SBの攻撃参加するスペースを確保するため)
②両SBが空いたスペースを使います。
→タイミングを見て、中盤の選手が
前線に飛び出し、攻撃を活性化させます。
前半は前線の3人のコンビネーションで
攻撃を完結させ、後ろの7人でネガティブ
トランジションの守備の対応をする
攻撃と守備が両方とも機能するシステムで
臨みましたが、後半は勝ち点『3』が必要と
判断したがゆえに、より前線に人数を
掛けたリスクのある戦術を取ったのです。
その結果、前半と比べて多くのチャンスを
作り、前半2本だったシュート数も5本まで
伸び、攻撃が活性化したことがデータからも
読み取れます。
しかし、マンチェスターシティーにPKの
チャンスを与えたり、トランジションの際の
プレスが緩くなったために、ある選手が
フリーになる機会が増加します。
その選手こそが次の項目で説明するダビド・シルバなのです。
3.後半のキープレイヤー『ダビド・シルバ』
マンチェスターシティーのこの試合の戦術上の
キープレイヤーはダビド・シルバです。
通常であれば[4-3-3]のインテリオールの
一角を担うダビド・シルバですが、
この試合ではトップ下としての役割を
与えられ、攻撃では主に中盤と前線を繋ぐ
パイプ役として高い位置でのプレーを
求められ、シルバにボールが渡れば
前線の選手にラストパスを送り、チャンスを
演出しています。
守備では[4-2-3-1]ではなく、[4-4-2]
の可変システムの2トップの一角として
アグエロと連携してリバプールの
最終ラインにプレッシャーをかけ
リバプールに簡単にビルドアップをさせません。
ダビド・シルバの役割については下の図で
詳しく解説します。
《シティーのキープレイヤーの『ダビド・シルバの攻守の動き』》
①攻撃では、中盤の選手や高いポジションを
取っているメンディーからパスを受け、
パスを受けたダビド・シルバがスターリング、
マハレズ、アグエロに展開してチャンスを
演出
②守備では、攻撃と異なる[4-4-2]の
フォーメーションで2トップの1人として
アグエロがプレッシングにいったら、連動
してリバプールのフリーの選手をマークして
パスコースを消してビルドアップを制限。
基本的にはこういった役割をダビド・シルバ
が請け負っていましたが前半では
リバプールの超攻撃型プレッシングがハマり、
ダビド・シルバまでボールが渡らず、
消えている時間帯が多く見えたように
感じます。
しかし後半になるとリバプールが前線により
SBもインテリオールの2人も前線の攻撃に
積極的に参加していたのでピンチの回数は
前半と比べて増加したものの、シルバが
フリーになる回数も増えます。
それはマンチェスターシティの[4-3-3]
時の弱点であるアンカーの両脇のスペースが
できたからです。
試合の終盤ここのスペースを使ってチャンス
をファイナルサードまで運びチャンスを作ったシーンを紹介します。
《ダビド・シルバの状況把握能力》
後半61分のシーンと後半85分のシーンの
2つ紹介したいと思います。
〇後半61分
①
↓
②
③
↓
④
ラポルトは前線のアグエロに向けた
ダイレクトなパスを送ります。(③)
アグエロはヘンダーソンの両脇のスペースに
ボールを落としダビド・シルバがボールを
受けます。(④)
⑤
↓
⑥
シルバがドリブルでファイナルサードまで
持ち込み(⑤)、逆サイドからダイアゴナルに
走りこんできたマハレズにスルーパスを
出す。(⑥)
〇後半85分
①
↓
②
ロブレンが左サイドでボールを持った
ところから、前線のサラーにパスを出します。(①②)
③
後ろからサラーにプレッシャーをかけていた
フェルナンジーニョがサラーからボールを
奪いメンディーがそのこぼれ球を拾います。(②③)
④
↓
⑤
メンディーは前線のザネに縦パスを出し
(④)、ザネがドリブルで前線にボールを
運びます。(⑤)
⑥
そのあと前にいたジェズスに当てます。(⑥)
⑦
パスを受けたジェズスはヴァイナルダムの
脇のスペースにシルバを走らせるパスを
出します。(⑦)
⑧
パスを受けたシルバは大外からゴール前に
走りこもうとしていたザネにスルーパスを
出します。(⑧)
両シーンともアンカーの脇のスペースを
活かしたチャンスシーンであります。
[4-3-3]のどのチームにも共通すること
なのですが、このスペースを使われると
基本的にはチャンスを作られます。
このスペースを使うことで中盤を容易に
突破することができ、最終ラインを越えれば
バイタルエリアに侵入でき、決定機を
作ることができるからです。
4.まとめ
一見0-0でつまらないような試合に見えた
かもしれませんが、戦術に視点を向けると
ビルドアップからフィニッシュまでお互いの
緻密な戦術が散りばめられていて、
相手の戦術に対応するシーンの早さもあり、
個人的にはとても面白い試合だったと
思います。
順位的にはこの試合が引き分けで終わり、
チェルシーが勝ったため、得失点差で1位が
マンチェスターシティー(得失点+18)
2位チェルシー(得失点+13)、3位
リバプールと順位が変わっておりますが、
勝敗だけで見れば、無敗の3チームが
並んでおり、代表ウィーク明けも順位争いに
注目です。
次節のリーグ戦は、リバプールがアウェイで
ハダーズフィールドと対戦で、マンチェスター
シティーはホームでバーンリー戦です。
今日も読んで頂きありがとうございます。
このブログが皆さんのお役に立てれば幸いです。
ではまた!